海外赴任と父親の病

海外赴任で海外に居住する日本人サラリーマンは年々増加している方向だろう。最近の若い人たちは日本に居たい人も増えているというが、企業は海外に出ざるを得ない。特に製造業に至っては、安い労働力が競争力を生むために、いまや当たり前となっている海外赴任。では、この海外赴任が各人の置かれてる事情によって人生に及ぼす影響はどうなるのだろうか。最も子供の養育、両親の面倒などお構いなしに赴任に一心不乱に突き進む人には、この話はあてはまらない。

私の場合、実の両親が高齢ながらも日本で生活している。微妙な書き方だが、赴任直前に父親に癌が見つかってしまった。海外赴任というイベントが無くても、かなりショッキングなできごとであるが、赴任まで1か月を切ったときに父がステージⅣと言われ、思考がとまってしまった。

今更後戻りできない・・そう思った。運が無い・・・そう思った。海外人事は数か月かけて進められる・・無茶を承知で、これを理由に海外赴任を断ることも考えた。でも、母親も当の父親も断ることなんて期待していない。大丈夫だから・・・。大丈夫な訳ないじゃないか。でも、息子が父親の病を理由に海外赴任を断ったら・・、息子を持つ父親の人として、そのまま行かせることが本人の希望ではないかと考えた。

結局、出向前の上司には告げず、そのまま出向することを決心した。2か月が過ぎ、あのときの判断は正しかったのだろうか。

母と姉が面倒を見ているが、彼女たちに対する申し訳なさと、抗がん剤治療で弱ってくる父の情報から、面倒をみれない自責の念が生じる。なりふりかまず帰るべきか・・一旦覚悟して出た以上、それはできないと、もう一人の自分が言っている。

結局、出向先の上司には事情を説明した。協力するから必要なときは帰国してい良いと言って頂いた。帰ったからと言って、自体が変わるわけではない。ほんの数日滞在したら、この地に戻ってこないといけない。そう思いつつ、母と姉にラインを打った。

自分の思っていた以上に彼女たちは。数日の一時帰国を受け入れてくれた。家族と医者で相談したいことも、気弱になってしまうこともあるだろう。こんな長男でも頼りになるのだろうか。年老いた母の顔が浮かぶ。ごめんね・・。でもこれは、貴方の息子が父親だったら、と選んでしまったことなのです。

まだ父が元気な間に顔を見せよう。顔をみせに帰ってきたことで母を安心させよう。今更、この出向に何かを期待しているわけじゃないじゃないか。出向者に事情を話して、少し休暇をとって帰ることにしたいと心底思う。明日、上司に話をしよう。

何が最善か、自問自答が続く。